2021年05月11日

天丼を食べただけの話

子供の頃、父親が読んでいた「サライ」に都内の老舗天丼屋が載っていた。
イラスト付きで店内の様子まで書かれており、なぜだか妙に心惹かれた。

繰り返し読んでは天丼に対する憧れが募っていった。
もともと外食する家庭では無かったのもあるが
田舎に天丼屋は殆どなく、てんやのようなチェーン店も存在していなかった。

食べる機会自体がないので天丼自体に好きも嫌いもなかったが、
遠い東京に対する憧れと重なったんだろうと思う。


それから10年以上が経ち都内に通う大学生になっていた。
すっかり天丼への憧れは忘却し、たまにてんやで食べるくらいの物になっていたが
どうやら親は、子供が熱弁していたものを覚えていたらしい。

上京してきた親と長い列に並んで天丼を食べた。


ーーー美味しくなかった。


店を出た後、あんまり美味しくなかった、と率直にこぼしてしまい
親もそうだね、と笑っていた。
口直しに甘いものでも食べに行こうと誘う親に、予定があるからと伝えてすぐに別れた。


あれからさらに時間が経ち、件の天丼の味はすっかり忘れてしまった。
食べログを見るとそれなりの点数がついていて、果たして本当に美味しくなかったのか、自分の記憶に自信がなくなってきた。

反抗期というほどではないけれど
親と一緒に何かをするのに気恥ずかしさが残っている頃だった。
なんとなく斜に構えて、美味しくないと通ぶってみるのがかっこいいと思っていただけじゃないのか。


そんな気持ちで再び、今度は自分一人で天丼を食べた。


−−−うん、やっぱり美味しくないわこれ。


世の中にはもっと美味しいものがいくらでもある。
それを知っている程度には大人になった。


叶うなら、親にもっと美味しいものをごちそうしたかった。
ただそれだけの話。
posted by ポワロ at 21:17| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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